地震から見た火山としての白山

活火山としての白山

 活火山とは気象庁によると「概ね過去1万年以内に噴火した火山および現在活発な噴気活動のある火山」と定義されています。現在日本には108の活火山があります。これらの活火山のうち噴火に備えて常時観測がなされているのは活動が活発な20の火山です。表面的には全く活動していない白山では常時観測は行われておりません。
 白山火山の活動は今から約30〜40万年前に始まりました。この時期の火山体は加賀室火山と呼ばれていますが、その中心位置や噴火様式などはほとんど分かっていません。その後、約10〜14万年前に古白山火山が形成され、約2〜4万年前に現在まで活動が続く新白山火山が誕生しました。歴史資料に残されている白山の火山活動とみなし得る最古の記述は706年にあり、その後のものとして1042年、1547年、1554年、1579年、1640年、1659年に噴火活動の記載が見られます。これらの歴史資料から白山には活動期が100年〜150年、休止期が約300年という約450年の火山活動周期があると考えてもよいでしょう。歴史資料の最後の噴火が1659年であり、既に300年以上経過していることを考えると、白山は現在活動期に入っている可能性があります。
 過去の噴出物から当時の火山活動を調べる火山層序学的研究からは最近1万年で平均的に500年に1回の割合で噴火があったことが報告されています。この数字は歴史資料から見積もられる約450年という周期と良く一致しています。ただ、過去の噴火は小規模な水蒸気爆発が多く、火砕流は3000年に1回、溶岩流になると1万年に1回の割合でしか起こっていません。

火山で起こる地震

 火山の噴火は地下深部で発生したマグマが地表に噴出する現象です。噴火の前には地下のマグマだまり内部の圧力が高くなります。周囲の岩盤へも力がかかり、耐え切れなくなった岩石に破壊が生じ、地震が起こります。また、火道をマグマやガス、流体が移動することによっても地震が起こります。火山で起こる地震は
(1)火山性地震  (2)火山性微動  (3)低周波地震
の3つに分類され、以下のような特徴があります。

火山性地震火山およびその周辺で起こる地震普通の地震と波形は同じ
火山性微動連続的な地面の震動波形の始まりと終わりが不明瞭
普通の地震より震動の振幅や周期が一定
振動時間が長い
低周波地震普通の地震より振動の周期が長い(=周波数が低い)震動の周期が一定

 噴火の前には火山性地震の震源が浅くなることや火山性地震や火山性微動の数が増加することがしばしばあります。特に火山性微動や低周波地震はマグマだまりや火道でのマグマやガス、流体の移動により発生すると考えられているため、これらの地震の発生を監視することは噴火予知にとって重要な意味があります。
 地震観測網の整備が進んだ1980年代以降、北陸地方の地震活動の詳細が明らかになってきました(図1)。図中の赤線は活断層を表しています。北陸地方では1948年の福井地震(M7.1)や1993年の能登半島沖地震(M6.6)の余震、跡津川断層や飛騨山脈に沿った地震が目を引きますが、白山周辺(図中の黄色丸内)にも地震が集中していることが分かります。このように地震が集中することは白山が活火山である証拠の1つです。
図1.北陸地方の地震活動(1980年〜2000年:地震データは京都大学防災研究所による)。図中の地震(黒丸)のほとんどはマグニチュード3以下の地震で無感地震です。黄色の丸で囲まれた領域が白山付近の地震活動を示しています。赤線は活断層を表します。

白山直下の低周波地震

 1999年7月18日にははじめて白山の直下で起こった低周波地震が観測されました。地震の規模を表すマグニチュードは1.2で、震源の深さは海面下37kmです(これ以降、本稿の深さとは海面下の深さを意味します)。地震としては小さく無感ですが、高性能な地震計では石川、岐阜、福井の3県にわたる広い範囲で地震波形が記録されました。図2に白山直下で起こった普通の地震(火山性地震)とこの低周波地震の波形を示します。この図を見ると低周波地震が低周波地震と呼ばれる理由、普通の地震より「周期が長い=周波数が低い」振動を示すことが分かるでしょう。この低周波地震の起こった深さは地殻とマントルの境界であるモホ面の深さとほぼ同じであり、マグマの源であるものがゆっくりと運動もしくは移動したことが原因だと考えられています。この低周波地震を「はじめて」と書きましたが、低周波地震が過去に起こっていなかったかどうかは良く分かりません。兵庫県南部地震以降、日本全国で地震観測の強化が進められています。北陸でもここ数年の間に地震観測網や観測システムはずいぶんと充実し、以前なら起こっていても観測できなかった地震が観測できるようになったからです。
図2.白山直下で起こった低周波地震と通常の地震(火山性地震)との比較。低周波地震の揺れの周期が長いことが見て取れます。

白山直下の地震活動

 近年、充実してきた地震観測網ではありますが、白山の下で起こる地震活動を高精度で捉えることができるかと問われれば残念ながらその答えは否となります。20年前の観測網では白山付近の1年間あたりの平均的な地震の個数は3〜4個でした。ここ数年では1年間あたり20個程度の地震が起こっています。一見、白山の地震数が増加した印象を受けますが、これは震源決定に使用できる観測点の増加や処理システムの改善による見かけ上のものです。しかし、白山の近くには相変わらず地震の観測点が少なく、白山直下のマグニチュード1以下の小さな地震はほとんど観測されていません。
 金沢大学では白山直下の地震活動の詳細を調査するために、雪が消える夏から秋にかけて白山周辺での臨時地震観測を2000年から始めました。2001年からは白山山頂部にも地震計を設置し、震源決定精度の向上を目指しました。図3に2001年、2002年の臨時地震観測の結果を示します。白山付近の臨時地震観測点のデータが加わったことにより、既存の観測網のみを用いた気象庁による結果と比べると地震数にして5倍以上の地震を観測することができました。この図から、白山山頂直下に集中して地震が起こること、震源の深さが0〜2kmに集中することが見てとれます。このような浅い場所に地震が集中するのは火山の特徴です。また、地震の震源決定精度は水平方向に100〜200m深さ方向にも500m程度と従来のデータに比べると著しく改善されました。この臨時地震観測期間中には火山性微動や低周波地震といった火山のマグマの動きに関連する地震は観測されませんでした。
図3.臨時地震観測による白山直下の地震活動。地震は海面下0〜2kmの深さに集中することが分かります。特に白山山頂部直下では地震の深さが浅くなる傾向があります。
 一般に火山の下で起こる地震の震源の深さは浅くなります。活断層で起こる普通の地震は深さ5kmより深い所で起こり、特に10〜15kmに集中します。それに対して、火山の下では5kmより浅い所で地震が起こることが多く、たいてい数km程度の深さに集中します。地震の起こる深さの下限を決める要因の1つに温度構造があります。地震の下限に対応する温度は約350℃です。これより温度が高くなると岩石の性質が柔らかくなり、力がかかっても破壊を起こさなくなるために、地震は起こらなくなります。火山の下には熱いマグマが存在するため、他の地域と比べて地温が350℃になる深さがかなり浅くなります。その結果として浅い所に地震が集中すると考えられています。また、マグマだまりの周囲は構造的にも弱く、地震が起こりやすい場所になります。図3から分かるように白山直下では地震の起こる深さは0〜2kmと非常に浅く、火山である典型的な特徴を示しています。また注意深く図3を見ると、地震の起こる深さの下限は白山山頂直下でさらに浅くなっているように見えます。これは白山直下に高温領域、すなわちマグマだまりが存在することを示唆しています。

白山火山の地下構造のイメージング

 地震活動の解析から白山の地下にはマグマだまりが存在すると考えてよい証拠が見つかりましたが、地下構造を詳しく調べれば別な証拠が見つかるかもしれません。地下構造を調べる方法として地震トモグラフィーがあります。これは原理的には医療の場で用いられているCTスキャンと同じで、X線の代わりに地震波の走時データ(P波、S波の到着時間)を用います。地震波を使って体内画像ならぬ地下画像を撮り、地球の中をあれこれ調べるのが地震トモグラフィーです。
 1997年〜2002年の5年分の地震データから3930個の地震のP波走時データ104,764個とS波走時データ97,232個を選び、地震トモグラフィー解析を行った結果が図4になります。P波速度(Vp)、S波速度(Vs)、Vp/Vsがそれぞれの深さの平均的な値のゆらぎとして表されています。P波速度、S波速度の図では色が赤いほど速度が遅く、青いほど速いことを意味します。火山と関連付けてこの図を解釈するときには、赤い部分は温度が高く、青い部分は温度が低いと定性的に考えることができます。Vp/Vsは文字通りP波速度とS波速度の比です。この値の大小は岩石の固さに関係があります。定性的には赤い領域の岩石は柔らかく、青い領域では固いことを意味します。
 白山の下に注目すると深さ10kmあたりにS波速度、Vp/Vsが赤く、P波速度が茶色の部分があることに気づきます。先に述べた定性的な解釈を当てはめると、この領域は周囲より温度が高く、岩石が柔らかい領域であると解釈できます。この領域に岩石が融けてメルトになったものが数%存在すると考えると地震トモグラフィーの結果を定量的にも説明可能です。このような特徴をもつ領域のことを部分溶融領域といい、現在活動中の多くの火山の下でその存在が確認され、そこにマグマが存在すると考えられています。つまり、地震トモグラフィーの研究から白山の地下10kmのところにマグマだまりが存在していることが分かったのです。両白山地にある既に活動を終えた第四紀火山の下にはこのような構造が見られないことからも白山が現在も生きている活火山であることが分かります。
図4.白山を南北に横切る断面での地震トモグラフィーの結果。白山の下の深さ10km付近にP波速度とS波速度が遅く、VP/VS比が大きい領域が存在します。この領域では部分溶融が起こっていると解釈でき、マグマ溜まりであると考えられます。○は地震、☆は低周波地震を表しています。

噴火予知

 噴火予知には短期的、長期的の2種類があります。長期予知のためには、過去の噴出物から噴火の時期や規模、様式を調査します。短期予知のためには、地震、地殻変動、電磁気的変動、火山ガス、地下水、などを用いて、噴火前に起こる前兆的変化を捉えます。2000年に有珠山や三宅島で的確に噴火予知ができたのは、上記の各種観測が充実していることに加えて、噴火の周期が数十年と短く、過去に実際に起こった前兆現象の蓄積による経験則も得られているおかげです。ただし、このような経験則が得られているのはほんの一握りの火山のみです。例えば歴史時代に噴火記録が無かった御岳山は1979年にさしたる前兆現象もなく突然に水蒸気爆発を起こしました。
 一方、1998年には岩手山で火山性地震が増加したのを皮切りに歪み計や傾斜計にも地殻変動が捉えられ、その後も低周波地震や火山性微動が発生、火山性地震の数もさらに増加したため、噴火も近いと考えられていましたが、現在まで噴火していません。また、前兆活動から噴火の規模を予測することは難しい問題です。雲仙普賢岳では地震活動の変化や地殻変動の観測から噴火をすることは予知されていましたが、島原市に甚大な被害をもたらし、山の形体を変えてしまうような激しい火砕流を伴う噴火になるとは全く予想されていませんでした。前兆の出方も火山により様々でマグマの動きと関連があると考えられている火山性微動や低周波地震は今回の有珠山の噴火前には観測されていません。火山の噴火には必ず前兆現象が伴うわけではないし、前兆的な現象があったとしても必ず噴火が起こるわけでもありません。
先に述べたように白山は既に活動期に入っている可能性があります。しかし、白山は近代的観測が始まってから噴火していないことに加えて、古文書などの歴史資料にも前兆現象の記載は無く、どのような前兆現象が観測されるかは実際に噴火が起こってみなければ分かりません。また、白山では火山活動監視という目的に合う観測データが乏しいのが現状です。白山の下で火山性地震や火山性微動が増加すれば、噴火の予兆として警戒することは可能です。しかし、そのデータのみで噴火予知を行うには不確定性があることを認識しておかなければなりません。

地震による火山災害

 噴火が起これば火山災害が生じます。しかし、噴火がなくともそこに火山があるだけで火山災害を引き起こすこともあるのです。火山はその噴出物で山体が形成されているために非常に崩れやすくなっています。白山では約4400年前に東側斜面で大規模な崩壊が起こり、岩屑なだれが庄川にまで流れ、砺波平野に大洪水を引き起こしたことが知られています。このような山体の崩壊は火山の爆発的な噴火で生じることが多いですが、火山の近くで起こった大地震に伴う強い地面の揺れによっても生じます。跡津川断層で発生したと考えられている1858年の飛越地震では立山鳶くずれなどの山崩れが多く発生し、常願寺川上流の湯川をせき止め、その後の決壊で下流域の村々に大きな被害を生じました。最近では1984年の長野県西部地震(M6.8)の際に御岳山で山頂南方の斜面が大規模に崩壊し、岩屑なだれが谷筋を12kmも下り15名の人が亡くなっています。
 過去に白山から20km以内の距離で起こった大地震には、帰雲山城を埋没させた1586年の天正地震(M7.8)、1855年の地震(M6.8)、1961年の北美濃地震(M7.0)があります。これらの地震時に白山で大規模な崩壊が起こった記録は無いようですが、北美濃地震の時には白峰からの登山道は落石・亀裂が多かったことが報告されています。白山周辺にもいくつかの活断層が存在し、前述の長野県西部地震や2000年10月6日に起こった鳥取県西部地震(M7.3)のように活断層の存在が確認されていない所でも大地震が起こることがあります。白山の近くで大きな地震が起こり、その強震動によって山体の崩壊が起こる可能性も考えておく必要があるでしょう。

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