地震から探る白山火山の地下

金沢大学大学院自然科学研究科  平松 良浩

 

白山は活火山

 

 概ね過去1万年以内に噴火した火山、または現在噴気活動が認められる火山は活火山と定義され、日本には108の活火山があります。両白山地の九頭竜火山列(図1のうすい灰色)と白山火山列(図1の濃い灰色)には火山がいくつもありますが、上の定義の活火山に該当するのは白山だけです白山は今から約3040万年前に誕生し、約34万年前から現在の山頂付近で火山活動を続けています。白山は歴史時代に何度も噴火を繰り返し、山頂付近の美しい池は全て過去の噴火口の跡です。歴史資料に残る白山の最後の噴火は1659年で、今の白山を見る限り活火山といわれてもピンとこないかもしれません。しかし、わたしたちの目に見えない白山の地下にはその確かな証拠があるのです。地震学的な研究から明らかになった白山の地下に隠れている火山の源、マグマだまりについてこれから紹介します。

 

1.両白山地における火山分布図(石川県白山自然保護センター(1992)による)。

 

火山と地震

 

 火山と地震には切っても切れない関係があります。火山があるところは地殻が構造的に弱いので地震が起こります。また、噴火の前には火山の下で地震が急増することがしばしば報告されています。火山で起こる地震には、火山性地震、低周波地震、火山性微動と3種類あります。火山性地震は、地震としては普通の地震と同じですが、火山周辺で起こるので火山性地震とよばれています。一方、低周波地震と火山性微動は普通の地震と性質が異なります。これらは普通の地震に比べるとゆっくりとした振動をする特徴があり、マグマの活動によって発生する地震であると考えられています。

 図2は北陸地方の地震活動を示しています。地震の多くは過去に大地震が起こった場所や活断層で起こっていますが、北アルプスに沿った地震のように火山の下で起こっている地震も少なくありません。白山(図2の白四角内の中心)に注目すると、やはり地震が集中して起こっていることが分かります。

 

図2.北陸地方の地形および19972003年に発生した地震の震央分布図(震源データは気象庁による)。白四角の中心に白山(標高2702 m)が位置する。

 

白山直下の地震分布

 

 金沢大学では2000年から白山の火山活動を解明するために地震観測を行っています。そのデータを用いて通常の震源決定をしただけでは白山の下に地震が集中することしか分かりません。しかし、もっと精密な震源決定ができる方法を用いて白山直下の地震の震源を決定しなおしたところ、白山直下で起こる地震がたいへん特徴のある分布をしていることが明らかとなりました。2001年から2003年の夏期に白山山頂と山麓部にて行った地震観測で得たデータに対して精密な震源決定を行った結果を図3に示します。

 第一の特徴は白山の山頂直下で起こる地震は水平方向で山頂の周囲1 km、深さ(海面下)01 kmに震源が集中し、2 kmより深いところでは地震が発生しないことです。普通の地震はだいたい深さ515 kmで起こりますから、このように浅いところで地震が局所的に集中することは活火山の特徴です。第二の特徴は山頂から離れるにつれて震源は深くなることです。地震の下限の深さは温度によって決まります。高温になると岩石がやわらかくなるので地震が起こせなくなります。したがって、高温のマグマがあるところでは火山性地震は発生しません。このような考えで白山直下の地震の下限の分布を見ると、山頂下の深さ4 km付近に小規模なマグマだまりが存在する可能性が考えられます。

また、この地震観測結果と気象庁の震源データも含めて図1の範囲での地震活動について検討を行ったところ、九頭竜火山列と白山火山列の火山の中で定常的に地震活動が認められるのは白山のみであることが明らかになりました。つまり、他の火山では地震を起こすようなマグマのエネルギーはもう失われているのです。

 

 

図3.精密震源決定により求められた白山近傍(10km 四方)の震源分布。右図と下図はそれぞれ南北断面と東西断面を表しています。深さは海面下の深さです。丸は2001年、十字は2002年、 菱形は2003年の臨時地震結果を示しています。それぞれの印の大きさはマグニチュードの大きさを表しています。点線は震源分布から決められた地震の下限で、それから推定されるマグマだまりの位置を灰色の領域で示しています。

 

地震トモグラフィーで見えるマグマだまり

 

 地下を伝わる地震波を用いて地中の地震波速度の分布を知ることができます。これは地震トモグラフィー解析と呼ばれており、医療の分野のCTスキャンと原理的には同じものです。CTスキャンでは人体を透過するX線を検出器で計測し、コンピューターで計算して人体の断層像を得ますが、地震トモグラフィーでは地下を通過する地震波を地震計で計測し、コンピューターで計算することにより地下の地震波速度像を得るものです。

 地震波には縦波のP波(波の進行方向と平行に振動)と横波のS波(波の進行方向と垂直に振動)があります。P波とS波が岩石中を伝わる速度は岩石の状態によって変化します。マグマだまりのように部分的に溶けている領域では、P波の伝わる速度(P波速度)とS波の伝わる速度(S波速度)は遅くなります。また、P波速度とS波速度の比(P波速度/S波速度)は大きくなることが室内実験などにより知られています。逆に言うと、このような特徴をもつ領域があれば、そこはマグマだまりということになります。

 

地震トモグラフィーで見た白山の地下

 

 では地震トモグラフィー解析の結果を見てみましょう。図4では各深さでの水平断面、図5は白山を通る南北断面での地震波速度のゆらぎ(平均値からのずれ)を示しています。P波速度とS波速度の分布図で点線で囲まれている領域(平均値より速度が遅い)に注目してください。白山(黒三角)下で点線のコンターが集中しているのが分かりますね。白山下にはP波速度とS波速度の両方で深さ1014kmのところに顕著に速度が遅い領域が存在し、その領域ではP波速度/S波速度も大きいという結果が得られました。これは上で述べたマグマだまりの特徴そのもので、白山の下の深さ1014 kmにある水平方向に20 kmくらいの拡がりをもった領域で地下の岩石が数%溶けていることを示しています。

 図4と図5には白山の周辺で起こった地震が白丸で示されています。地震の分布と地震波速度構造を比較すると、白山下で発生する地震はP波速度/S波速度が小さい領域に集中していることが分かります。深さ1014kmP波やS波の速度が遅い領域を避けるようにして地震が分布していることからも、この速度が遅い領域は地震を起こすことができない高温の領域、すなわちマグマだまりであると考えられます。一方、白山以外の両白山地の火山(灰色三角)の下にはこのようにP波速度とS波速度が遅くてP波速度/S波速度が大きな領域はありません。これらの火山の下には地震波の速度という点から見ても白山の下にあるようなマグマだまりは存在していないのです。

 図5の星印は白山の下で起こった低周波地震の位置を示しています。これらの低周波地震の発生した深さ3040 kmの領域でも、深さ1014 kmの領域ほど顕著ではありませんが、P波速度とS波速度が遅く、P波速度/S波速度が大きくなっています。これくらいの深さの結果については少し信頼性が欠けるのですが、低周波地震はマグマの活動によって発生することを考えると、この領域も地殻とマントルの境界付近にもマグマが存在すると解釈することもできます。ちなみにこの地震トモグラフィー解析には限界があって、ある大きさ以上のものしか見えません。地震の分布から推定される浅いところにあるマグマだまりは小さすぎてこの地震トモグラフィー解析では見えません。

 

図4.深さ6 km10 km14 kmでの地震波速度のゆらぎ(%、上:P波速度、下:S波速度)。実線は速度が速い領域、点線は速度が遅い領域を表します(間隔はそれぞれ2%)。白丸は地震の震源位置、星は低周波地震の震源位置を表します。黒三角は白山、それ以外の三角は他の火山を示しています。白山の下の深さ1014 kmP波速度とS波速度の遅い領域が存在することが分かります。

 

図5.断面A-A'でのP波速度、S波速度、P波速度/S波速度のゆらぎ(%)。実線は速度が速い領域、点線は速度が遅い領域を表しています(間隔はそれぞれ1%)。白丸は地震の震源位置、星は低周波地震の震源位置です。黒三角は白山、灰色の三角は他の火山を示しています。白山下には周囲に比べてP波速度とS波速度がともに遅く、P波速度/S波速度が大きな領域がありますが、他の火山下にはそのような領域は見られません。

 

白山のマグマだまりのモデル

 

 白山直下の浅い地震の分布と深部の低周波地震の分布や地震トモグラフィーの結果から、白山の下には浅いところ(深さ45 km)と深いところ(深さ1014 km)にマグマだまりがあり、地殻とマントルの境界付近にもマグマがある可能性が考えられます(図6)。白山の最近1万年の噴火史の研究から、小、中規模の噴火は400500年に1回、溶岩流を出すような大規模な噴火は数千年に1回起こっていたことが知られています。地震学的な研究から得られたマグマだまりのモデルを用いると、個々の小、中規模の噴火の際には最も浅いところにある小さなマグマだまりから、大量の溶岩流を出すような大規模の噴火の際には深さ1014 kmの大きなマグマだまりから大量のマグマが上昇しているのかもしれません。

 表面上は穏やかで活火山らしくない白山ですが、ここに紹介したように地下では活火山としての特徴を備えています。このことは白山が将来も繰り返し噴火する活火山であることを意味しています。わたしたちは将来に起こるであろう白山の噴火に対してどのように取り組むのかそろそろ考える時期を迎えているのかもしれません。最後になりましたが白山での地震学的研究にご協力いただいた関係諸機関の方々に御礼申し上げます。

 

図6. 地震活動や地震トモグラフィーの結果から推定される白山下のマグマだまりの位置と地震との関係。